研究と現場、それぞれの原点

――FさんとOさんのご経歴をお聞かせください。

Fさん:
入社前は、体操インストラクターとして「グランクレール馬事公苑」と「グランクレール世田谷中町シニアレジデンス」で、ご入居者の皆様の健康づくりを支援しておりました。

ご縁があり、東急イーライフデザインに入社してからは、本社スタッフ兼インストラクターとしてロコモ予防体操プログラムを担当しています。運営統括部 運営推進部ケア品質向上室に所属し、2025年8月で入社から丸6年が経ちました。

Oさん:
私は2017年度に新卒で東急イーライフデザインへ入社しました。入社後の最初の配属は、「グランクレール藤が丘シニアレジデンス」で、フロント業務を3年間担当。入社半年後からは経理業務にも携わり、さらにロコモ予防運動プログラムの担当として、体操インストラクターも兼務していました。

4年目となる2020年には、「グランクレール芝浦シニアレジデンス」の開業にあたり、立ち上げスタッフとして異動しました。「グランクレール芝浦シニアレジデンス」でもフロント、経理、ロコモ予防運動プログラムの各担当を継続し、引き続き多くのご入居者と関わりました。

2021年からは本社勤務となり、ロコモ予防運動プログラムに専念しています。それ以前からも、現場に所属しながら本社のロコモ予防業務を兼務していましたが、大学院進学を機に本社専任となりました。

実は私は入社前、大学卒業後すぐに順天堂大学大学院の修士課程に進学し、東急イーライフデザインのロコモ予防運動プログラムの監修をしていただいている町田先生の研究室に所属していました。
ちょうどその年、東急不動産と順天堂大学との産学連携協定が締結され、学生として「グランクレール」でのセミナーや体力測定会に関わることができました。

入社後も、順天堂大学と東急イーライフデザインとの橋渡し役として、研究データの分析やエビデンスの蓄積などに取り組んできました。2021年度には会社の推薦を受け、順天堂大学大学院の博士課程に進学し、2024年3月に無事修了いたしました。現在も引き続き、ロコモ予防運動プログラムを担当しています。

学生時代に感じた現場の雰囲気やスタッフのあたたかさが、入社の大きなきっかけとなりました。ロコモ予防運動プログラムに深く関わることになるとは当時は想像していませんでしたが、今では大きなやりがいを感じています。

科学的根拠に基づく“動けるからだ”づくり!ロコモ予防運動プログラムとは

――ロコモ予防運動プログラムについて教えてください。

Fさん:
ロコモ予防運動プログラムは、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の監修のもと、科学的根拠に基づいた運動メニューを通じて「立つ」「座る」「歩く」といった移動機能の低下を予防するものです。個人の状態に合わせたコースを提案し、週1~3回の体操教室、ご自身の体力をチェックする体力測定会、そして結果説明会を通じて丁寧にサポートしています。
私たちは単に運動を提供するだけでなく、大学と連携しながらデータを取り、その成果をしっかりとご入居者に還元しているのも大きな特徴だと思います。

Oさん:
そうですね。2015年に「グランクレール藤が丘シニアレジデンス」でスタートしたこの取組が、今では「グランクレール」の全シニア住宅へと拡大し、2025年で10周年を迎えました
10年にわたり継続し、データを定期的に測定して「見える化」することで、ご入居者一人ひとりにフィードバックを行い、認知機能に関する測定も加えています。こうした産学連携をベースにしたプログラムは、実は介護業界でもまだ珍しく、当社ならではの取組です。
「静かに過ごしてください」という雰囲気が一般的だった従来のシニア住宅に対し、「体を動かして介護予防をしましょう」という新しい流れを作れたのは、とても意義があることだと感じています。

Fさん:
「動けるからだ」を作るこの取組は、筋肉への影響だけにとどまらず、脳の認知機能の維持にもつながる可能性がわかってきています。
90歳を超えても、10年前、つまり80歳のとき以上の結果を出す方もいて、本当にすばらしい成果です。今ではご入居者の皆様からも「ロコモ体操があるから安心できる」という声をいただけるようになり、継続の大切さを実感しています。

そして、プログラムが生活に根づくよう、一人ひとりの当日の状態に合わせた対応を心がけています。体調や体の状態に応じて、無理のない動き方を提案したり、立つのが難しい方には座位での実施に切り替えるなど、細やかな工夫をしています。
こうした柔軟さがあるからこそ、ご入居者にとって「続けやすいプログラム」になっていると感じています。

Oさん:
地道に継続してきたからこそ育まれたこの取組は、ご入居者の姿にも表れています。「立ち座りが楽になった」「散歩できるようになった」と、生活が豊かになる変化が多数。スタッフからも「表情が明るくなった」という声が寄せられ、非常に喜ばしいです。
他社でも最近は運動を取り入れる流れが見えてきていますが、私たちがこの10年先行して築いてきたノウハウは、東急イーライフデザインならではの強みだと誇りに思っています。

ご入居者の安心を守り、地域へ届けるミッション

――現在のロコモ予防運動プロジェクトチームのミッションをお聞かせください。

Fさん:
ロコモ予防運動プロジェクトチームのミッションは、まず、グランクレールなどのシニア住宅で展開しているロコモ予防運動プログラムを安定的に運営していくことが大きな柱です。
そして、今年度はちょうどプログラム開始から10周年を迎える節目の年でもあり、この10年間の蓄積を地域の皆様にもどのように届けられるか、そこを模索していく段階に入っています。

現在は住宅内での提供が中心ですが、この素晴らしいプログラムを地域の方々にも届けていけないかと考えています。ただ、住宅のスペースなどの制約もあるため、地域にこちらから出向く形も視野に入れて、どのような手段が適切かを検討中です。
具体的な数値目標や計画まではまだこれからですが、外に向けての第一歩を踏み出す準備期間として、検証や検討を重ねていきたいと思っています。

――現在のお二人の仕事内容について詳しく教えてください。

Oさん:
私は主に、年2回の体力測定会のデータを管理・分析する業務を担当しています。測定会当日には、現場に出向いてご入居者へのフィードバックや結果説明を行うこともありますが、それに加えて、測定データの整理・検証・研究といった、データ周りの業務を中心に行っています。

具体的には、測定結果に誤りがないかのチェックや、学会発表に向けたデータ分析、資料作成などです。
最近では、コロナ禍による体力変化の傾向をデータから読み取るなど、客観的な視点でご入居者の健康状態を捉えるようにしています。これらの情報はスタッフ間で共有し、ご入居者の支援につなげています。

また、順天堂大学大学院で学んだ経験を活かし、測定の質を保つために住宅スタッフに向けたマニュアル作成や研修資料の整備、研修講師もFさんと共に担当しています。専門的な知識を広げ、住宅スタッフの皆さんとともに質の高い取組ができるよう日々努めています。

Fさん:
私は主に、ロコモ予防運動プログラムの運営に関する業務を担当しています。特に体操インストラクターの管理・育成や研修をはじめ、プログラムの内容検討、安全管理の相談対応など、住宅スタッフとの連携も含めて幅広く関わっています。

また、体力測定会の運営サポートも行っており、夏季には測定の正確性を担保するためのスタッフ向け研修を実施しています。私自身も現場に入り、測定員として活動することもあります。

ご入居者の笑顔と自立を支える

――やりがいについて教えてください。

Oさん:
本社勤務でありながら、ご入居者と直接関わる機会があるというのが、私にとってはとても嬉しいことです。普段は数字や資料を扱う地道な仕事が多いですが、その先に必ずご入居者や現場のスタッフの皆さんの顔が思い浮かぶんです。

私は人が好きなので、ずっと本社にこもっている日が続くと「早く現場に行きたいな」「もっと人と関わりたいな」という気持ちになります。住宅のスタッフやご入居者と一緒に、チームとして取り組めることが、この仕事の一番のやりがいです。

Fさん:
今、Oさんが話したことには私も共感します。そしてもう一つは、「いつまでも自分の足で歩ける状態でいたい」という誰もが持つ願いに対して、私たちの取組が根拠をもって応えられるという点に、大きな意義を感じています。

平均寿命が延びる中で、自立した生活を維持するのは年々難しくなってきています。でも、私たちが推進しているロコモ予防運動プログラムには、その状態を予防できる明確な手段です。それを伝え、広めていくことは本当に意味のある仕事だと感じています。

ご自身で立てなくなってしまうと、「自分はもうダメかもしれない」と思ってしまう方もいらっしゃいます。だからこそ、それを防ぐための方法が実証されていて、実際にやれば効果が出るという事実をお伝えできること、その役割を担えていることに、大きなやりがいを感じています。

Oさん:
実際に、体力測定会などの現場に出向いた際、ご入居者が愉しそうに参加してくださり、「役に立ったよ」と声をかけていただけることがあります。そういう瞬間に、日々の業務が現場につながっている実感が持てて、やっていて本当によかったなと思えますね。

10年の積み重ねが生んだ変化と手ごたえ

――ロコモ予防運動プログラムのプロジェクトを始めてから変化したことについて教えてください。

Fさん:
入社当初は、ロコモ予防運動プログラムや測定会を導入している住宅はまだ限られていて、スタッフの理解を得るのも大変でした。ただ、ご入居者の元気になられる姿を見て、スタッフの意識も徐々に変わってきたんです。
今では会社としての後押しもあり、協力的に取り組んでいただけるようになったのは、とても大きな変化だと思います。

Oさん:
スタッフの意識の変化は本当に大きいですよね。私が感じているのは、ご入居者の「測定」に対する受け止め方の変化です。
最初は「衰えを突きつけられるのでは」と不安に思われる方も多かったのですが、実際に参加してみると「思ったより悪くなかった」「維持できていて安心した」と笑顔で帰られる方が増えてきました。

Fさん:
ご入居者にとって「安心につながる体験」になったのは大きいですよね。以前は測定結果が悪いと落ち込まれてしまうこともありましたが、今では「ここはまだ維持できていますよ」「こういう運動で改善できます」といった前向きなフィードバックができるようになりました。

Oさん:
そうなんです。私たちはこの10年間、ただ測定して終わるのではなく、必ずフィードバックをすることにこだわってきました。各スタッフがその重要性を理解し、知識を深め、伝え方を工夫するようになったのは大きな進歩です。
住宅スタッフと本社が連携して、ご入居者お一人おひとりに適した説明を心がけています。

その結果、ご入居者から「参加してよかった」「励みになった」といった声を多くいただけるようになりました。私自身、ご入居者の笑顔や前向きな言葉に触れるたびに、続けてきてよかったと実感します。

Fさん:
変化を感じているのはご入居者だけではありません。プログラムを指導しているインストラクターの方々からも「ロコモ運動プログラムを教えるようになって、自分のパフォーマンスも上がった」と言っていただくことがあります。
ヨガやダンスの講師を本業とされている方が、姿勢や動作の基本を改めて見直すきっかけになったとおっしゃっていたのが印象的でした。

Oさん:
「グランクレール」のご入居者は、フィットネスクラブに通う層より平均年齢が10歳ほど高いこともあり、インストラクターにとっても新しい挑戦なんですよね。ご入居者と一緒に取り組む中で、指導者自身が学びを得ているのも、このプログラムならではの成果だと思います。

現場と研究をつなぐ、数々の試行錯誤

――ロコモ予防運動プロジェクトの取組の中で、大変だったことやそれを乗り越えた方法について教えてください。

Fさん:
苦労したことは、本当にたくさんありますね。現在17の住宅で同じプログラムを展開していますが、それぞれ運営スタイルが異なる中で、体操や測定会の「質」を均一に保つというのが大きな課題です。
そのため、マニュアルの作成やスタッフ研修など、認識を統一する取組を丁寧に行っています。

また、測定会が「イベント」として捉えられてしまうこともありますが、これは単なるイベントではなく、ご入居者の健康を支える重要な取組だということを、初めて担当されるスタッフの方々にしっかり伝えるよう心がけています。

Oさん:
私自身が苦労したと感じたのは、ロコモ予防運動プログラムが大学と連携して研究をしていることに対するご入居者やスタッフの理解を得ることでした。
私が入社した当初は、「研究対象にされたくない」と測定会を拒否されるご入居者もいらっしゃいましたし、スタッフの間でも「ご入居者の気持ちを思うと参加を勧めづらい」という空気があったように思います。

ただ、町田先生をはじめ、私たちの研究はあくまで「ご入居者の健康寿命を延ばすため」のものであり、同意いただいた方のみデータを活用しているということを、丁寧に説明し続けてきました。
ある日、「僕のデータが社会の役に立つなら、いくらでも使ってくれていいよ」と声をかけてくださったご入居者がいらっしゃって。その言葉が、心が折れそうになっていた私を大きく支えてくれました。

その後は、ご入居者もスタッフも研究への理解が進み、協力を得やすい雰囲気になってきたと感じています。もちろん「データは提供したくない」という方の意思は尊重していますが、以前のような強い抵抗感は少なくなりました。
今ではむしろ「どんなデータが出ているのか」と周囲から期待される場面が増え、そのスピード感に応えることが新たな課題になっています。他の業務と並行しながら、限られた時間で研究成果をまとめるのは簡単ではありませんが、それだけ社会的にも意義がある取組だと実感しています。

そしてもう一つ、印象的だったのは、グランクレール藤が丘でロコモ体操の参加者が減少していた時期に、あるご入居者から「私は本気で歩き続けたい。だからロコモ体操をやめないで」と涙ながらに訴えられたことです。
その時、一緒に働いていた住宅スタッフの方々が、「私も声かけるよ」「チラシ作るね」「時間調整しよう」と全員で動いてくださって。皆さんの支えがあったからこそ、「この道を続けてよかった」と心から思えたんです。

ロコモ予防の取組は、研究だけでも現場だけでも続きません。住宅スタッフ、ご入居者、そして私たち本社のチーム全員が同じ方向を向いているからこそ、ここまで来られたのだと感じています。

順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科教授・医学博士 町田修一先生とFさん・Oさん

10周年の次なる一歩、地域展開への挑戦

――今後の目標ついて教えてください。

Fさん:
今後の目標としては、現在「グランクレール」の中でご入居者の皆様に支持されているこの運動プログラムを、地域の方々にも届けていくという展開を進めていきたいです。
今年でちょうど10周年を迎える今、これまでの蓄積を地域へという次のフェーズに活かしていければと思っています。

ロコモ予防の活動は一見華やかに見える部分もありますが、実際は地道な積み重ねが8割以上です。ただ、そういった「地味だけど大切なこと」にしっかりと取り組むことが、結果としてご入居者の健康と安心につながると信じています。

Oさん:
私自身の今後の目標としては、まずは会社に学ばせていただいたことへの感謝を形にしていくことです。大学院で得た知識や経験をさらに深めて、スタッフやご入居者の皆様に還元できるよう、引き続き学びを続けていきたいと考えています。

特に、データ分析の部分では、皆さんが期待してくださっているような成果を、しっかりとした形でお見せできるように、研究活動にも注力していくつもりです。
また、ロコモ予防運動の取組を通じて、「フィットネスクラブには通えないけれど、本当は運動が必要」という地域の方々にもアプローチしていけたらと考えています。

グランクレールのご入居者の方々が感じてくださったようなポジティブな変化や、取組に対する安心感を、今度は地域の高齢者の皆様にも広げていきたいと思っています。

※本記事に掲載されている情報は、2025年8月24日時点の情報です。

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