フレイルとは?リスクを理解する第一歩

高齢者の健康を守るうえで見逃せないのが「フレイル」の兆候です。ここでは、フレイルの意味やリスク因子、進行による影響を理解し、予防・介入の重要性を考えていきます。

フレイルの定義と位置づけ

フレイルとは、健康な状態から要介護に移行する過程にある“中間の段階”を指します。
具体的には、加齢とともに身体や心の機能が衰え、社会的な関わりが希薄になることで、生活の自立度が徐々に低下していく状態です。

見た目には元気そうでも、転倒しやすくなったり、些細なストレスで体調を崩すようになるなど、外的な負荷に対する回復力が落ちているのが特徴です。
ただし、フレイルは適切な予防や支援によって、元の健やかな状態に戻る可能性がある可逆的な段階でもあります。そのため、早期に兆候を察知し、介入することが大切です。

主なリスク因子

フレイルのリスク因子は多岐にわたりますが、大きく分けて身体的・精神的・社会的の3側面があります。

身体的には、運動不足や栄養不良による筋力低下に加え、加齢に伴って生じやすい「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」「サルコペニア(筋肉量の減少)」なども代表的な要因です。
さらに、複数の薬を併用するポリファーマシーや慢性的な痛みも、移動能力や活動量の低下につながります。精神的には、意欲の低下やうつ傾向、軽度の認知機能低下が影響。そして社会的側面では、独居や経済的不安、社会とのつながりの希薄さがリスクとなります。

これらの要因は単独ではなく相互に影響し合い、悪循環を生みやすいため、身体・心・社会の3方向からの包括的な予防と支援が重要です。

▼ロコモティブシンドロームを予防するための「ロコモ体操」についての記事はこちら。

フレイルが進行するとどうなる?

フレイルの状態が進行すると、身体能力の低下にとどまらず、病気への抵抗力が弱くなり、入院や転倒を契機に一気に要介護状態へ移行する危険性があります。
例えば、健常な方なら回復できる軽度な風邪でも、フレイルの高齢者では肺炎に悪化することがあり、そこから筋力の低下や認知機能の混乱を招くケースも少なくありません。

さらに、入院に伴う環境の変化によって「せん妄」が現れることもあり、心身の負担は大きくなります。このように、フレイルは死亡や寝たきりのリスクを高めるため、早期発見と適切な対応が重要です。

フレイルのリスクがあるかをチェックする

フレイルの兆候を見逃さないためには、日常のちょっとした変化に気付くことが大切です。
国際的には、アメリカのリンダ・フリード氏らが提唱した5項目の基準が広く用いられており、日本ではこれをもとにした「日本版CHS基準(J-CHS基準)」が身体的フレイルの診断に活用されることが多くあります。

チェック項目のうち3つ以上に該当すると「フレイル」、1~2項目で「プレフレイル」と判断されます。また、気力の低下や社会参加の減少といった精神的・社会的な要因も見逃せないサインです。
ここでは代表的な5つのチェックポイントを紹介します。

1. 体重減少

最近6ヶ月の間に、特にダイエットや病気などの明確な理由がないまま体重が2kg以上減っている場合、注意が必要です。
高齢者の体重減少は、単なる痩せではなく、筋肉や栄養状態の悪化を示している可能性があります。特にBMIが低下している方は、健康リスクが高まる恐れがあり、フレイルの初期サインと考えられます。

2. 疲れやすさ

普段通りの生活をしているだけなのに、最近なんとなく疲れやすいと感じることはありませんか?
特別な原因がないにもかかわらず、倦怠感が続く場合、それは体力や心のエネルギーの低下を示すサインかもしれません。見過ごしやすい症状ですが、フレイルの兆候として重要なポイントです。

3. 歩行速度の低下

歩く速さは、体の状態を映し出すバロメーターです。以前より歩くのが遅くなった、階段の上り下りが辛くなったと感じたら、筋力やバランス能力が低下している可能性があります。
特に通常の歩行速度が秒速1.0メートルを下回る場合、フレイルのリスクが高まるとされています。

4. 握力(筋力)の低下

「買い物袋を持つのがつらくなった」「瓶のふたが開けにくくなった」、そんな小さな変化に筋力の低下は現れます。
握力は身体全体の筋力と密接に関係していて、特に男性で28kg未満、女性で18kg未満だと注意が必要です。日常生活の動作にも影響を及ぼすため、早めの対応が求められます。

5. 身体活動量の低下

運動をする習慣がなくなったり、体操すらおっくうに感じたりといった生活が続いている方は要注意です。
週に一度も軽い運動やスポーツをしていない場合、身体活動量が著しく低下しており、フレイルの進行を招きやすい状況といえます。意識的に体を動かす習慣が、予防の第一歩になります。

フレイルのリスクを下げる生活習慣

フレイルは予防できる状態であるからこそ、日常生活の積み重ねが重要です。ここでは、具体的な生活習慣の工夫と実践ポイントを紹介します。

食事の工夫

栄養不足は、筋力低下や骨の脆弱化を引き起こし、フレイルのリスクを高めます。
日々の食事では、特にたんぱく質・カルシウム・ビタミンDの摂取を意識することが大切です。例えば、魚・豆類・卵などを取り入れた食事を心がけることで、筋肉や骨の健康維持に役立ちます。
野菜、果物、魚介類、ナッツ類、全粒穀物などを豊富に摂取し、良質なオリーブオイルを利用する食事パターンである「地中海食」も、フレイル予防に有効であることが複数の研究で示されており、近年注目されています。

さらに、口腔機能の低下を防ぐためにも、よく噛める口腔環境を保つことが必要です。噛む力を維持しながら、バランスよく食べる習慣が、健康長寿への第一歩となります。

運動習慣のポイント

加齢に伴う筋肉量の減少を防ぐには、継続的な運動が欠かせません。筋力トレーニングに加え、早歩きや階段の上り下りといった日常的な動きを取り入れることで、効率的に身体機能を保てます。

また、ウォーキングや体操など、有酸素運動との組み合わせも推奨されます。無理のない範囲で「続けられる」ことを重視し、自分の生活スタイルに合った方法を選ぶことがポイントです。

さらに、外出や地域活動を通じて体を動かす機会を増やすことで、運動と社会参加の両面からフレイル予防が可能となります。

社会参加とメンタルケア

心身の健康は、社会とのつながりによって支えられています。定年退職や子育ての終了などで人との接点が減ると、気づかぬうちに孤立や意欲の低下が進行してしまいます。サークル活動やボランティア、地域イベントへの参加などを通じて、人との交流を続けることが重要です。

また、近年ではスマートフォンやタブレットを活用したデジタル交流も注目されています。オンラインでのコミュニケーションや情報収集は、外出が難しいときの選択肢としても有効です。社会とのつながりを持ち続けることが、メンタル面でも身体面でもフレイルの予防につながります。

口腔ケアの重要性

「噛む」「飲み込む」といった口腔機能の衰えは、栄養摂取の低下を招き、フレイルを加速させる要因となります。オーラルフレイルと呼ばれるこの状態を予防・改善するには、日々の口腔ケアが欠かせません。

歯磨きやフロスの活用はもちろん、舌や頬の筋肉を動かすトレーニングも効果的です。また、かかりつけ歯科医での定期的なチェックにより、口の健康状態を把握し適切な対処ができます。
口腔機能は、単に食事をするためだけでなく、認知機能や社会的なつながりとも深く関係しています。健康寿命を延ばすためには、口腔のケアを生活習慣の一部として取り入れることが大切です。

フレイルのリスクを放置しないために

フレイルは静かに進行しますが、早期に気づいて行動すれば、そのリスクを軽減できます。家族や周囲の観察力、地域の医療・福祉サービスを取り入れることがカギとなります。

家族や周囲が気づくサイン

フレイルの進行を防ぐには、日常の小さな変化に早く気づくことが重要です。体重の減少や歩き方の変化、会話の減少など、本人が自覚しにくい兆候も多く見られます。こうした変化を周囲が敏感に察知することが、早期介入への第一歩となります。

体重や筋肉量、体脂肪率などを定期的に測定し、記録していくことは、見逃しやすい変化を「見える化」する効果があります。
特に高齢の家族がいる場合には、日々の様子に目を配り、気になる兆しがあれば専門機関に相談する姿勢が求められます。

医療機関や自治体サービスの活用

フレイルの兆候が見られたときには、医療機関や自治体の支援サービスを早めに利用することが効果的です。多くの地域では、健康相談や栄養指導、運動指導などを提供しており、専門家による適切なアドバイスを受けられます。かかりつけ医との連携をはじめ、地域包括支援センターの利用や、高齢者向けの通所型サービスなども活用の選択肢に入るでしょう。

こうしたサポートは、本人の状態を客観的に評価し、必要な支援へとつなげる役割を果たします。身近なリソースを上手に取り入れることが、フレイル予防において大きな支えとなります。

早期介入がもたらすメリット

フレイルへの早期介入は、健康寿命を延ばすとともに、医療・介護費の抑制にもつながります。筋力の低下や低栄養状態を未然に防ぐことで、転倒や寝たきりのリスクを下げられ、結果として自立した生活を長く続けられます。また、生活習慣の改善によって慢性疾患の予防にもつながり、入院や長期療養の可能性も減少します。

介護現場においても、早期対応により支援の負担が軽減されるため、施設運営の効率化や利用者のQOL向上といった面でもメリットが大きいといえます。気づいた時点での行動が、将来の安心につながるのです。

まとめ

フレイルは適切に理解し、早期に対応することで予防・改善が可能な状態です。介護の現場では、ご入居者の小さな変化に気づき、支援につなげる力が求められます。
日々の観察や生活支援の積み重ねが、ご本人の自立支援と健康寿命の延伸につながります。フレイルの知識は、介護職としての視野を広げ、質の高いケアを提供するうえでも大きな力となるでしょう。

関連する記事

関連するキーワード