ACPとは?基本の考え方を解説

自分らしい最期を迎えるために、医療やケアについて事前に話し合っておく「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」が注目されています。ここではその意味や背景、従来の終末期医療との違いについて紹介します。

ACPの定義と略称の意味

ACPとは「Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)」の略で、日本語では「人生会議」とも呼ばれています。
この言葉が示すのは、ご本人が自分の価値観を認識し、今後の人生についてどう生きたいかを、ご本人が主体となって、そのご家族や近しい人、医療・福祉・ケアの担い手と共に考えるプロセスです。
※大阪府看護協会「看護職のためのACP支援マニュアル」より引用

最期まで「自分らしく」生きるためにはどのような要素が必要かを、医師やケアマネジャー、介護士、看護師、ご家族などと繰り返し話し合い、考えながら、多方面からの選択肢を提供し、より良い医療や在宅生活をご自身で決定できるよう、その方の人生設計をチームで支援する(サポートする)ことが目的です。
ACPは高齢化が進む現代社会において、ご本人が望むかたちで最期を迎えることを支える重要なプロセスとして、多くの医療・介護現場で注目されています。

従来の終末期医療との違い

ACPは、従来の終末期医療と異なり、ご本人の価値観や想いを反映した「対話のプロセス」を重視する点に特徴があります。

以前は、延命治療の可否などを文書に残す「リビングウィル」や「医療委任状」といった事前指示が主流でしたが、これらは一度記載すると変更が難しく、医療の知識が乏しいまま判断することも少なくありませんでした。
ACPでは、ご本人と医療・ケアチーム、ご家族様などが繰り返し対話を行い、その時々の状況や心境に合わせて内容を柔軟に見直せることが強みです。

また、医療的な判断だけでなく、どこで最期を迎えたいか、どのようなケアを受けたいかといった幅広い希望についても確認できます。
このように、ACPは形式にとらわれず、人間らしい生き方を支えるための「継続的な話し合い」としての役割を果たしているのです。

なぜ今、ACPが必要とされているのか

医療技術の進歩や社会構造の変化により、人生の最終段階における医療やケアの在り方は大きく変わりつつあります。その中で、ご本人の意思を大切にするACPの必要性が高まっています。
現代でACPが必要とされる背景について詳しく見ていきましょう。

高齢化と家族の関係性の変化

高齢化が進む現代では、ご本人が医療やケアについて判断できない状況に直面することが増えています。
その際に重要となるのが、家族による意思決定の支援ですが、核家族化や価値観の多様化が進んだ今、家族間で意見が一致しないケースも少なくありません。

誰もが納得できる医療選択をするには、ご本人の希望を事前に共有しておくことが不可欠です。ACPは、そのような状況に備えて、早い段階から繰り返し話し合いを行うことで、ご本人の意思を明確にし、家族間の混乱や悩みを軽減する助けとなります。
高齢社会における「人生のしまい方」を考える上で、ACPは重要な対話の機会を提供します。

医療選択肢の増加と意思決定の複雑化

医療の進歩によって、治療法やケアの選択肢は格段に増えました。その一方で、人生の最終段階における意思決定は、より複雑で困難なものになっています。

たとえば、延命措置を行うかどうかといった判断は、単に医学的な知見だけでなく、ご本人の価値観や生活の質(QOL)、死に向かう過程の質(QOD)も含めて慎重に考える必要があります。
薬や人工呼吸器、栄養補給など、いずれの措置にもメリットと負担があるため、それを「受けたいかどうか」は、ご本人にしか決められません。

ところが、意思を明確にできない状態では判断が困難になるため、事前に意思を共有しておくことが重要です。
ACPは、医療・介護チームやご家族と共に繰り返し対話を行い、変わりゆく意思を記録し続けることで、より良い医療選択を支える手段となります。

ACPのメリット

ACPは、ただ話し合いをするだけのものではありません。ご本人の希望に沿った生き方を支え、ご家族の心の負担を軽くするという、人生の大切な場面に寄り添う力を持っています。
ここでは、ACPを行うことのメリットを確認していきましょう。

本人の価値観や希望を尊重できる

ACPは、元気なうちからご本人の気持ちを確認し、共有しておくことで、その人らしい生き方を支える手段です。
医療やケアの方針が本人の希望に基づいていれば、周囲も納得感を持って関わることができます。
尊厳ある最期を迎えるために、本人の思いをきちんと尊重できる仕組みとして、ACPは非常に意義のあるプロセスです。

家族の精神的・時間的負担を軽減できる

ご本人が意思を示せない状況で医療の選択を迫られたとき、判断を託されるご家族様には大きなプレッシャーがのしかかります。
「延命処置をするべきか」「本人は何を望んでいたのか」と悩む時間は、精神的にも時間的にもとても負担が大きいものです。

ACPを実践していれば、あらかじめ本人の希望を確認し、話し合いができます。そのため、いざというときにも「これは本人が望んでいたこと」と納得して選択ができ、迷いや後悔を軽減できます。
また、意思決定のスピードも早まり、医療現場での対応も円滑になります。ご家族様にとっても、ご本人にとっても、安心して最善の道を選べる体制を整えることが、ACPの大きな役割のひとつです。

ACPの進め方と話し合いの内容

ACPは一度だけの話し合いではなく、繰り返し対話を重ねていくプロセスです。
ご本人の意思や価値観を大切にするために、どのように進めるのか、どんなことを話し合うのかを押さえておくことが重要です。一つずつ確認していきましょう。

ACPの基本的な進行ステップ

ACPを進める際には、いくつかのステップを踏むことが推奨されています。まずは、ご本人とご家族が、どのような価値観や希望を持っているか、どのような医療やケアを受けたいのかなどを率直に話し合うことが出発点です。

次に、医師やケアマネジャー、看護師、介護士などの専門職に相談し、希望が実現可能かどうか、医学的な観点からの助言を受けるステップも重要です。
その後、話し合った内容を「人生会議ノート」や「エンディングノート」などに記録し、定期的に見直します。このようなプロセスを経ることで、ご本人の思いが確実に関係者に伝わる仕組みが整います。

話し合いで確認すべき主なポイント

話し合いではまず、ご本人にACPの目的や意義を説明した上で、心理面のアセスメントをし、了承を得られた場合のみACPの話し合いを進めます。

そのうえで、ご本人が大事にしていることを聴き、価値観の理解に努め、将来の治療やケアの目標を探索します。
現状と今後の見通し、治療やケアの選択肢の利点や負担についてのご本人の理解を確認し、
最終的な延命治療の希望や、最期を迎える場所(自宅、病院、施設など)についても話し合いましょう。

また、医療的な処置にはそれぞれメリットと負担がありますので、主治医の説明を踏まえて判断することも大切です。
さらに、意思表示ができなくなったときに代わって意思決定を担ってほしい人(代理意志決定者)や、話し合いの内容を共有する範囲も確認しておく必要があります。こうした一つひとつの対話が、ご本人の思いを具体的な行動につなげていく鍵になります。

ACPを実施する際の重要ポイント

ACPを実践する際には、「いつ、誰と、どのように」話し合うかが大切です。その中でも特に意識したいポイントを解説します。

繰り返し話し合うことの意義

人の意思や価値観は、体調や生活環境の変化によって少しずつ変わっていくものです。
たとえ今は明確な希望があっても、病状の進行や気持ちの揺らぎによって、それが変わることもあります。

そのためACPでは、初回の話し合いだけでなく、継続的に見直すことが大切です。定期的にご本人とご家族、支援者が対話を重ねることで、常に今の思いを把握し、医療やケアの方針に反映させられます。
さらに、繰り返すことで周囲との信頼関係も深まり、ご本人が意思表示できなくなった場合でも、周囲がその思いを理解し尊重した判断がしやすくなります。ACPは一度で完結するものではなく、対話の積み重ねこそがその本質です。

多職種によるチームサポートの重要性

ACPの実践において、ご本人とご家族様だけで完結させるのは困難です。医療やケアの専門的な判断が必要となる場面も多く、そこに多職種のサポートが加わることで、より確かな意思決定が可能になります。
具体的には、かかりつけ医を中心に、看護師、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、リハビリ職など、様々な立場の専門職が関わります。それぞれが異なる視点からご本人を支え合うことで、医療だけでなく生活面も含めた全体的なケアが実現します。

こうした連携体制は、ACPが一時的な選択ではなく、ご本人の人生に寄り添った持続的なサポートとして機能するために不可欠です。地域ぐるみで支える意識を持つことも、ACPの成功に大きく影響します。

ACPの主役はあくまでご本人

ACPを行う上で、最も大切にすべきことは「ご本人の思いが中心である」という原則です。
医療者やご家族、支援者がどれほど熱心でも、ご本人の意思が置き去りになってしまっては、望むかたちのケアにはつながりません。

たとえ年齢や病状により体調や気持ちが変化しても、その時々の声を丁寧に聞き取り、反映していくことが求められます。
また、ご本人の性格やこれまでの人生観に関心を持ち、日常のふれあいを通じて理解を深めていくことも重要です。ご本人を「支援の対象」としてではなく、一人の人として尊重する姿勢が、信頼関係を育みます。
ACPは、周囲が導くのではなく、ご本人の選択を周囲が支える取り組みであるということを忘れないようにしましょう。

まとめ

本記事では、ACPの基本的な考え方や必要とされる背景、実践の進め方について解説しました。
ACPの実践には、ご本人を中心にした継続的な対話と、多職種が連携した支援体制が欠かせません。一人ひとりの人生観や価値観を尊重しながら、柔軟に進めていくことが求められています。
ご本人の想いを起点に、納得のいく医療とケアのあり方をともに考えていきましょう。

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